フルリモート案件を獲得する方法と注意点

この記事の結論

  • フルリモート案件の獲得は、探し方の問題ではなく母数の問題です。条件を1つ足すごとに、候補は掛け算で減ります
  • リモート案件の実数は約128,970件(掲載408,133件 × リモート比率31.6%/2026年6月度)。ただしこの「リモート」には週3〜4日出社の案件も含まれています
  • フルリモート単独の比率を公表している主要エージェントは、確認できませんでした(FLR-16の調査)。つまりあなたが探している条件の母数は、誰も公表していません
  • 母数の逓減は実数で追えます。レバテックの例では、掲載102,415件 → リモート54,004件 → 主戦場言語で絞ると約11,990件3条件で約8.5分の1です
  • 逆に、比率95%のFindyでも言語を重ねると約1,300件比率が高い会社より、実数の多い会社を主戦場言語で絞ったほうが約9倍多いという結果になります
  • リモート案件の単価は常駐より月2.1万円高い(79.6万円 vs 77.5万円)。これは待遇の上乗せではなく、発注側が引き受けるリスクの分だけ選抜が厳しいことの反映と読むのが自然です
  • 獲得の実務で効くのは「リモート希望」と言うことではなく、発注側が怖がっている3つ(立ち上がりコスト・進捗の見えなさ・情報の持ち出し)を、自分の過去の実績で潰して見せることです
  • そして最も見落とされているのが契約です。「給付・役務提供の場所」は、フリーランス新法3条通知の法定明示事項8項目のひとつ(公正取引委員会Q&A 問35)。稼働場所は、書面または電磁的方法で明示されるべき事項です
  • 募集段階にも規定があります。募集情報に「業務に従事する場所」を欠くものは、的確表示義務(法12条)違反にあたります(同Q&A 問90/2025年12月18日改訂)。ただし「応相談」という表記自体は認められています
  • 継続案件のリモート化には、もう一つのルートがあります。6ヶ月以上の業務委託では、育児・介護を理由とした配慮の申出に対応する義務があり(法13条)、公取委が示す配慮の例には業務の一部をオンラインに切り替える調整が含まれています

「フルリモート案件 獲得」で検索して出てくる記事のほとんどは、「エージェントに登録して、面談で希望を伝えましょう」で終わります。間違ってはいませんが、この通りにやって提示ゼロで止まる人が出るのは、探し方以前に母数の問題があるからです。

フルリモートは希望条件ではありません。候補の集合を絞り込むフィルタです。しかも「リモート」というフィルタの中身は各社バラバラで、フルリモート単独の件数は、どの主要エージェントも公表していません。自分が何件のうちから選んでいるのかが分からないまま探すことになります。

この記事では、まず母数がどう減るのかを実数で示し、そのうえで獲得の手順と、契約前に確定させるべきことを扱います。特に最後の契約については、フリーランス新法にあなたの側から要求できる法的な根拠があります。ここを書いている記事はほとんどありません。

対象は、ITエンジニア・Webデザイナー・ITコンサルタントとして、フルリモートを条件に案件を探している方、および現在の常駐案件をリモートに寄せたい方です。

前提|フルリモートは希望ではなく、母数を絞る条件

いま、リモート案件はどれだけあるのか

まず市場全体の位置を確認します。

指標2025年4月2026年6月増減
掲載案件数(全体)463,542件408,133件−12.0%
リモート案件比率33.6%31.6%−2.0pt
リモート案件の実数(比率から算出)約155,750件約128,970件−17.2%

※リモート案件の実数は掲載案件数×比率で算出した推計値です。原典は比率のみを公表しています(エン・ジャパン『フリーランススタート』定点調査)

比率では2ポイント下がっただけに見えますが、実数では17.2%減。全体の減少率12.0%より速いペースです。この分解はFLR-27で詳しく扱っています。

企業側の環境も同じ方向に動いています。日本生産性本部の調査(2026年7月)では、テレワーク実施率は14.5%で調査開始以来最低。さらに、テレワーク実施者のうち週の出勤が「5日以上」の人が32.5%で過去最多「0日」は10.6%で過去最少でした。出社回帰は、実施率だけでなく実施している人の中でも進んでいます

「導入率は上がっているのに実施率は下がっている」という状態

総務省の令和7年通信利用動向調査では、企業のテレワーク導入率は50.1%で前年の47.3%から反転しています。情報通信業に限れば92.8%です。

一方で、実際にテレワークをしている人の割合は14.5%(日本生産性本部)。制度としては存在するが、日常の運用は出社に戻っているという状態です。

これは案件探しに直結します。発注元の企業が「テレワーク制度あり」であることと、あなたの案件がフルリモートで回ることは別の話だということです。面談で確認すべきは制度の有無ではなく、そのチームの現在の出社実態です。

「リモート案件」の中にフルリモートが何割あるかは、誰も公表していない

ここが最大の落とし穴です。各社の集計における「リモート」区分には、次のすべてが混在しています。

表記実際の稼働集計上の扱い
フルリモート出社なし。地方在住でも参画可能「リモート」に含まれる
リモート可/リモート中心週1〜2日出社、キックオフのみ出社など同じく「リモート」に含まれる
一部リモート週3〜4日出社のケースもある同じく「リモート」に含まれる

FLR-16の調査では、フルリモート単独の比率を公開している主要エージェントは確認できませんでした。レバテックの市場動向にある「フルリモートのシェア約3割」という数値も、全案件に対するシェアなのかリモート区分内の割合なのかが判別できません。

つまり、あなたが探しているフルリモート案件の母数は、現時点で誰も公表していないということです。これが「リモート案件は多いはずなのに提示が来ない」という体感の正体です。

条件を足すごとに、母数は掛け算で減る

抽象論では動けないので、実数で追います。2026年8月に取得した掲載データを使います。

絞り込み条件残る案件数(レバテック掲載ベース)絞り込みなしに対する比率
絞り込みなし102,415件100%
+リモート区分54,004件52.7%
+主戦場言語(例:Java 22.2%)約11,990件約11.7%
+フルリモート(出社ゼロ)算定不能(比率が非公表)
+希望単価・稼働日数・商流さらに減る

※言語構成比はレバテック掲載案件全体の比率(Java 22,785件/102,415件)。言語とリモート可否が独立に分布すると仮定した粗い試算です。実際には相関があるため、この数字は目安として読んでください

条件を3つ重ねただけで、約8.5分の1になります。そして4つ目の「出社ゼロ」に至っては、そもそも何件あるのか分からない

比率の高い会社より、実数の多い会社を絞ったほうが多い

同じ計算を、リモート比率95%のFindy Freelanceでやってみます。

  • 掲載2,562件 → リモート2,442件 → TypeScript構成比53.2%を掛けると約1,300件
  • レバテックのJava×リモートは約11,990件

約9倍の差です。リモート比率95%の会社を選んでも、領域を重ねた後の実数では、比率52.7%の会社に大きく負けます

これは「比率ではなく実数で見る」という原則が、領域を重ねた後にも成立することを意味します。フルリモートを条件にするなら、比率の高さではなく、絞り込んだ後に残る件数で登録先を選んでください。

なぜフルリモート案件は単価が高いのか

リモートのほうが月2.1万円高いという事実

2026年6月度の集計では、働き方別の平均月額単価はこうなっています。

働き方平均月額単価掲載比率
常駐77.5万円68.4%
リモート79.6万円31.6%

「リモートを選ぶと単価が下がる」という通説とは逆の結果です。ただしこれを「リモートを選べば単価が上がる」と読むのは因果の取り違えです。

発注側が引き受けている3つのリスク

リモートで人を受け入れる側は、常駐にはないコストを負っています。整理すると3つです。

発注側のリスク常駐なら解決している方法リモートで代わりに必要なもの
立ち上がりコスト隣に座って口頭で教えるドキュメントと、質問を自分から出せる人
進捗が見えない席にいるかどうかで概況が分かる自分から進捗を出す習慣とチケット運用
情報の持ち出し執務室・入退室管理・社内ネットワーク貸与PC・VPN・自宅環境の要件充足

この3つを引き受けられる相手にしか出せないから、リモート案件は応募できる人が絞られます。単価が高いのは働き方への対価ではなく、要求水準が高いことの結果と読むのが構造的に自然です。

裏を返せば、獲得の実務は「リモート希望です」と伝えることではなく、この3つを潰せる人間だと示すことになります。手順のセクションはここから設計します。

リモート案件は、競合も全国に広がっている

見落とされがちな点をひとつ。常駐案件は通勤圏という地理条件で候補者が絞られます。フルリモート案件にはその絞りがありません。

つまり、あなたにとって選択肢が全国に広がるということは、他の候補者にとっても同じです。「地方在住でも東京の案件を受けられる」は、「東京在住の候補者とも同じ土俵で比べられる」と同じことを言っています。

これは統計で確認された事実ではなく、案件の性質から導かれる構造の話です。ただし、フルリモート案件で書類選考の通過率が体感的に低いという話の説明としては、単価水準の高さと合わせて整合的です。

獲得手順|6ステップ

STEP 1|「リモートで成果を出した証拠」を棚卸しする

最初にやるのは応募ではなく、材料の棚卸しです。

注意すべきは、「在宅勤務の経験があります」は証拠にならないということです。情報通信業のテレワーク導入率は92.8%、業種別のテレワーカー割合も情報通信業が74.1%で最高です。IT職において在宅勤務の経験は、ほぼ全員が持っているため、差別化になりません。

書けるのは次の3種類です。先ほどの「発注側の3つのリスク」に1対1で対応させています。

潰すリスク棚卸しする実績書き方の例
立ち上がりコストリモートでオンボーディングを受けた/した経験「フルリモートで参画し、初週はドキュメントとコードリーディングで自走、質問は非同期で集約して週2回に整理」
進捗が見えない文章で意思決定を残した成果物「設計判断をADR(Architecture Decision Record)として12本記録し、非同期でレビュー合意を形成」
情報の持ち出しセキュリティ要件のある環境での稼働経験「貸与PC+VPN+IP制限の環境で18ヶ月稼働。自宅の作業環境は個室・有線接続」

逆に、書いても効かないものもはっきりしています。「コミュニケーション能力に自信があります」「自己管理ができます」といった自己申告は、検証できないため判断材料になりません。発注側が知りたいのは性格ではなく、同じ状況で過去に何が起きたかです。

STEP 2|スキルシートに足す3行

スキルシートの基本構成はFLR-21で扱っているので、ここではリモート案件に特有の追加項目だけを挙げます。

追加する行書く内容理由
直近の稼働形態と期間「フルリモート/2024年4月〜2026年3月(24ヶ月)」のように形態と期間をセットで「リモート経験あり」ではなく期間を出すと、立ち上がりの実績として読める
稼働可能時間帯「平日10:00〜19:00(コアタイム11:00〜16:00で調整可)」発注側の最大の不安は「連絡がつくか」。先に潰す
出社の可否と上限「原則リモート希望/月2回まで都内出社可(要事前調整)」ここが最も効きます(次の注記を参照)

「出社不可」ではなく「月◯回まで可」と書くと、母数が変わる

リモート案件の相当数が、キックオフや月次の定例だけ出社を求めるタイプです。「出社不可」と書くとこの層がまるごと候補から外れますが、「月2回まで可」と書けば残ります。

そのうえで、実際に出社が発生するかは案件ごとに交渉できます。先に自分でゼロに絞ってしまうと、交渉のテーブルに着く前に候補が消えます。

本記事の母数逓減の表が示しているのは、条件を1つ足すごとに掛け算で減るという構造です。条件は交渉で寄せるものであって、検索段階で固定するものではありません。

STEP 3|母数を確保する

ここまでの準備ができたら、探す先を広げます。

先の試算のとおり、フルリモートという条件を重ねると、1社の掲載範囲だけでは母数が足りなくなります。かといって登録数を増やすほど面談とスキルシート更新の管理コストが増えるため、実務的な上限は2〜3社です。

組み合わせの考え方はひとつだけです。「リモート比率の高い専門特化型」と「実数の多い総合型」を1社ずつ。前者は自分の領域でリモートが標準になっているかを測る用、後者は絞り込んだ後の件数を確保する用です。

STEP 4|面談で聞く、4つの数値質問

、ここではリモート固有の4問に絞ります。いずれも件数か回数で答えが返る形にしてあるのがポイントです。「リモート案件は多いですか」と聞くと「多いです」としか返りません。

質問この質問で分かること
「私の経歴で提示可能な案件は、いま何件ありますか」絞り込み後の実際の母数。ここが2桁を切るなら登録先を追加する判断材料になる
「そのうち、出社が月0回の案件は何件ですか」「リモート」区分の内訳。公表されていない数字を、自分の条件に限って聞き出せる唯一の方法
「直近3ヶ月で、フルリモート案件の成約実績は何件ありましたか」掲載されているかではなく、実際に決まっているか。掲載だけあって決まらない領域が存在する
「オンボーディング期間だけ出社を求める案件は、そのうち何件ですか」後述する最頻出の落とし穴を、契約前どころか面談段階で切り分けられる

STEP 5|初回は、固定する条件を2つまでに絞る

条件は4つあります。フルリモート/単価/稼働日数/技術領域。全部を初回から固定すると、母数の逓減表のとおり候補が消えます。

状況初回に固定する条件後から寄せる条件
独立直後・フリーランスの実績なし技術領域+稼働日数フルリモート・単価
リモートでの稼働実績が1年以上あるフルリモート+技術領域単価・稼働日数
地方在住で物理的に通えないフルリモート+技術領域単価・稼働日数(後述の地方セクション参照)

これは「妥協しましょう」という話ではありません。リモートでの稼働実績そのものが、次のフルリモート案件を取るための最大の材料になるため、順序の問題として実績を先に作るほうが速い、ということです。STEP 1で棚卸しした3種類の実績は、いずれも実際にリモートで稼働していないと書けないものです。

STEP 6|募集と契約、2つの段階で「場所」を確定させる

ここが本記事の中核です。多くの記事が「契約書をよく確認しましょう」で終わらせている部分に、法的な根拠があります

募集段階|「業務に従事する場所」は必須記載事項

フリーランス新法12条は、募集情報の的確表示義務を定めています。公正取引委員会のQ&A(2025年12月18日改訂)では、募集情報のうち特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、住所、連絡先、業務の内容、業務に従事する場所、報酬の6事項を欠くものは「誤解を生じさせる表示」に該当し、法12条違反となると示されています。

つまり、業務に従事する場所が一切書かれていない案件票は、それ自体が問題です。

ただし注意点があります。同じQ&Aでは、<cite index=”8-1″>業務に従事する場所について複数の候補を示して「応相談」とする表記も可能</cite>とされています。「リモート応相談」は適法な表記であって、フルリモートが確定しているという意味ではありません。

契約段階|「役務提供の場所」は3条通知の法定明示事項

そして、ここが最も重要です。公正取引委員会のQ&A 問35によれば、<cite index=”8-1″>3条通知で明示しなければならない事項は、①当事者の名称 ②業務委託をした日 ③給付・役務の内容 ④給付・役務提供の期日 ⑤給付・役務提供の場所 ⑥報酬の額及び支払期日 ⑦検査をする場合は検査完了日 ⑧現金以外の方法で支払う場合は支払方法に関すること、の8項目</cite>です。

⑤の「給付・役務提供の場所」が、法定の明示事項に含まれています。

「基本リモートです」という口頭の説明は、明示になっていない

稼働場所は、あなたが好意でお願いする条件ではありません。書面または電磁的方法で明示されるべき法定事項です。電磁的方法には電子メール、チャットツール、SMS、SNSのメッセージ機能を用いて送信する方法が含まれますので、メール1通でも要件は満たせます。

したがって、面談で「基本リモートです」と言われたら、「3条通知の役務提供の場所の欄には、どう記載されますか」と聞くのが正しい聞き方です。これは無理な要求ではなく、発注側が果たすべき義務の内容を確認しているだけです。

なお、明示事項の内容を業務委託時点で定められないことにつき正当な理由がある場合は、その事項の明示を要しないとされていますが、その場合も内容が定まった後に直ちに明示する必要があります。「後で決めます」で終わらせず、いつ確定するのかまで確認してください

継続案件をリモートに寄せる、もう一つのルート

すでに常駐で稼働している案件をリモート化したい場合、法13条が使える場面があります。

公正取引委員会のQ&Aによれば、6か月以上の業務委託(契約の更新により6か月以上継続するものを含む)を行う特定受託事業者から育児介護等の配慮の申出があった場合、発注側は①申出内容等の把握 ②配慮の内容又は取り得る選択肢の検討 ③配慮の内容の伝達及び実施、または不実施の場合の伝達・理由説明、を行う必要があります。

そして配慮の具体例として、<cite index=”8-1″>介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること</cite>が明示されています。

この規定の限界を正確に押さえてください

使えるルートですが、万能ではありません。3つの限界があります。

  • 対象は6ヶ月以上の業務委託(更新により6ヶ月以上継続するものを含む)。短期案件は義務の対象外です
  • 理由が育児・介護に限られます。「通勤が面倒」「リモートのほうが集中できる」は本条の対象ではありません
  • 実現義務ではありません。配慮の内容や選択肢について十分に検討した結果、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、不実施の旨を伝達し理由を説明すれば法13条違反とはなりません

つまり本条が保証しているのは**「検討され、結果と理由が返ってくること」**であって、リモート化そのものではありません。それでも、申出を無視する・検討しないことは法違反になるという点は、交渉の足場として意味があります。

注意点|契約前に確定させる8項目

面談で口頭合意しても、書面に落ちていなければ後で覆ります。次の8項目は、稼働開始前に文字で確定させてください

確認項目確定させる内容曖昧なまま進めた場合に起きること
1. 出社の頻度と目的月何回・何のために(定例/リリース/障害対応)「必要に応じて」が月4回になる
2. オンボーディング期間の出社初月は出社か。何日間か最頻出の落とし穴。「最初の1ヶ月だけ」が延びる
3. 交通費・宿泊費の負担者誰が持つか。上限額はいくらか遠方在住だと1回の出社で数万円規模の自己負担になり得る
4. コアタイムと連絡可能時間何時から何時まで応答義務があるか実質的に常駐と同じ拘束になる
5. 稼働の可視化要件勤怠ツール/カメラ常時ON/画面共有の有無常時カメラONが後から要件として出てくる
6. 情報セキュリティ要件貸与PCの有無/VPN/自宅ネットワーク要件/同室者の制限自宅環境が要件を満たせず、参画後に出社に切り替わる
7. 3条通知の「役務提供の場所」欄の記載法定明示事項。どう記載されるか条件変更を主張する根拠が残らない
8. 稼働場所の変更手続き契約期間中に出社要請へ変更する場合の手続き条項「来月から出社で」が一方的に通る

8番が効くのは、契約更新のタイミング

フリーランス新法16条は、6ヶ月以上の業務委託を中途解除・不更新とする場合、30日前までの予告を義務づけています。予告日(当日)から解除日の前日までの期間が30日間確保されている必要があり、8月31日に解除する場合は8月1日までに予告が必要という運用です。

ただし注意してほしいのは、「来月から出社にしてください」は解除ではなく条件変更である可能性が高いということです。解除の予告義務が直接適用される場面とは限りません。

だからこそ、稼働場所の変更手続きを契約書側に入れておく必要があります。法律が守ってくれる範囲と、自分で契約に書かせておく範囲を分けて考えてください。

よくある失敗パターン

失敗何が起きているか回避策
「リモート可」を鵜呑みにする週3〜4日出社の案件が同じ区分に入っている件数ではなく出社回数で聞く(STEP 4の2問目)
初回からフルリモート限定で探す母数が掛け算で減り、提示ゼロになる初回に固定する条件は2つまで(STEP 5)
単価の高さを「リモート手当」と誤解するリモート79.6万円は要求水準の反映。自分の水準を過大評価する単価差2.1万円を選抜の厳しさとして読む
移住を先に決めてしまう案件が確保できず、出社不可能な状態だけが残る案件確保 → 稼働実績 → 移住の順(後述)
契約更新時の出社要請を想定していない出社回帰は進行中。週5日以上出勤は過去最多稼働場所の変更手続きを契約に入れる(8項目の8番)
稼働の切れ目リスクを過小評価するリモートは競合も全国。次が決まる保証はない稼働中から次の窓口を開けておく(FLR-20)
口頭合意で稼働を開始する役務提供の場所は法定明示事項なのに書面がない3条通知の記載を稼働前に確認する(STEP 6)

地方在住・移住検討者への実務

案件は首都圏に集中している

FLR-16の掲載データを見ると、地域の偏りは比率どころではありません。

エージェント東京都大阪府倍率
レバテックフリーランス70,097件12,703件約5.5倍
Findy Freelance1,189件31件約38倍

※フリーランスHub調べ/2026年8月(FLR-16の定点観測より)

雇用者側の統計でも同じ傾向が出ています。国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査では、**雇用型テレワーカーの割合は首都圏37.7%に対し地方都市圏17.2%**でした。

したがって、地方在住者の実務は「地方の案件を探す」ではなく「東京の企業の案件をリモートで受ける」になります。Findyのリモート比率が95%と高いのに東京都以外の掲載がほぼないのは、まさにこの形が前提になっているからです。

移住は、案件を確保してから

順序を間違えると取り返しがつきません。

理由は単純です。移住前の「出社不可」は交渉条件ですが、移住後の「出社不可」は物理的な制約だからです。前者は案件ごとに寄せられますが、後者は外せません。STEP 5で「初回に固定する条件は2つまで」と書いたのに、移住を先にすると自分で条件を1つ固定した状態からスタートすることになります

判定材料は、契約書の記載ではなく「実際に何回発生したか」

このフローの1つ目の判定は、「フルリモート契約かどうか」ではなく「出社要請が実際に何回発生したか」です。

契約書にフルリモートと書いてあっても、リリース前の集中対応、障害時の招集、体制変更の面談などで、運用の側から出社の必要が出てくることがあります。これは契約違反とは限らず、実務としては断りにくい場面もあります。だから確かめるべきは文面ではなく実績です。

なぜ3〜6ヶ月なのか

期間には2つの意図があります。

ひとつは、オンボーディング期間を除いた定常状態を見るためです。参画直後の1〜2ヶ月は出社が多くなりがちで、ここだけを見ても平常の出社頻度は分かりません。

もうひとつは、契約更新を1回またぐためです。更新のタイミングは、発注側が稼働場所の条件を見直しやすい場面です。更新をまたいで出社要請が増えないことを確認してからのほうが安全です(契約側の備えは「契約前に確定させる8項目」の8番)。

なおこの3〜6ヶ月という目安は調査に基づく数値ではなく、上の2つの目的から逆算したものです。更新サイクルが長い案件なら、それに合わせて伸ばしてください。

2つ目の判定は、金額ではなく「負担者が書面で確定しているか」

出社要請が月1回以上発生していた場合でも、それだけで移住が不可能になるわけではありません。分岐するのはその往復コストを誰が持つのかが、書面で確定しているかです。

金額の大小ではなく確定の有無で分けているのには理由があります。発注側負担で確定していれば、出社回数が増えても手取りは削られません。逆に未確定のまま移住すると、距離が伸びた分だけそのまま収入減になります。同じ案件・同じ単価でも、移住した瞬間に実質の手取りが下がるということです。

ここで「保留」に入った場合も、中止ではありません。図の左側を回っている矢印のとおり、負担者を確定させてから同じ判定に戻ってこられます。交通費の負担者は、案件を降りなくても契約更新のタイミングで交渉できます。

移住してから案件を探すと、「出社不可」という条件を固定した状態で母数を絞ることになります。逆順にできない制約を先に作らないでください。

出社1回の実コストは、単価の議論より先に計算しておく

遠方在住で月1回の出社が発生する場合、往復交通費 × 出社回数 × 契約月数が実質的な収入減になります。宿泊が必要なら宿泊費も加算されます。

この金額が、リモートと常駐の単価差(月2.1万円)を超えることは十分にあり得ます。「フルリモートは単価が高い」という平均値の話と、自分の手元に残る額は別物です。

契約前に確定させる8項目の3番(交通費・宿泊費の負担者)を、単価の交渉より先に片付けてください。負担者が決まっていない状態での単価合意は、金額が確定していないのと同じです。

獲得手順の全体フロー

ここまでの6ステップを1枚にまとめます。ただし、この図で見てほしいのは順番ではありません。3箇所のゲートです。

フルリモート獲得でつまずく人の多くは、手順を飛ばしたのではなく、進んではいけない場所で進んでいます。母数が足りないまま案件を選び、条件が固まらないまま稼働を始める。ゲートはそれを止めるために置いています。

3つのゲートは、それぞれ違うことを止めている

ゲート判定する内容通らなかったときに戻る先
① 稼働実績リモートでの稼働実績が1年以上あるか条件の固定をやめる。技術領域+稼働日数を先に固定し、フルリモートは後から寄せる(STEP 5)
② 提示件数出社が月0回の案件が何件提示されたか母数を作り直す。登録先を追加するか、固定している条件を1つ外す(STEP 3)
③ 場所の明示役務提供の場所が書面で明示されたかいつ確定するかを確認する。明示は発注側の法定義務(STEP 6)

①と②は母数の問題、③は契約の問題です。前半2つは「戻ってやり直せる」種類の分岐ですが、③だけは性質が違います。稼働を始めてしまうと、条件が違ったときに主張する根拠が残りません。だから最後のゲートだけ、図中でも色を変えています。

ゲート②で止まったとき、条件を外す順序

提示件数が2桁に届かなかった場合、外す条件には優先順位があります。単価 → 稼働日数 → 技術領域の順で、フルリモートは最後まで外さないでください。

理由は本記事の前提そのものです。フルリモートは希望条件ではなく、移住や生活設計と結びついた前提条件であることが多い。一方で単価と稼働日数は、稼働実績を積んだ後に交渉で戻せます。戻せるものから外すのが原則です。

ただし独立直後で実績がない場合だけは例外で、ゲート①の分岐どおりフルリモートを後回しにするほうが速いという判断になります。リモートでの稼働実績そのものが、次のフルリモート案件を取るための材料になるからです。

よくある質問

フルリモート案件は、全体の何割くらいありますか?

フルリモート単独の比率を公表している主要エージェントは、調査時点で確認できませんでした。分かっているのは、リモート区分全体の掲載比率が31.6%(2026年6月度/エン・ジャパン『フリーランススタート』)ということだけです。この31.6%には、週1〜2日出社や週3〜4日出社の案件も含まれています。したがって「フルリモートは何割か」という問いに、現時点で答えられる公開データはありません。自分の条件に限った件数を知る唯一の方法は、面談で「出社が月0回の案件は何件ありますか」と聞くことです。

リモート比率が一番高いエージェントに登録すれば、フルリモート案件を取りやすいですか?

そうとは限りません。比率と実数は別だからです。比率95%のFindy Freelanceはリモート案件2,442件、比率52.7%のレバテックフリーランスは54,004件で、実数では約22倍の差があります。さらに主戦場言語で絞ると、Findyの例で約1,300件、レバテックの例で約11,990件と、約9倍の差になります。比率は「その会社の領域でリモートが標準か」を示す情報であり、あなたの選択肢の量を示すのは実数のほうです。

「リモート可」と書かれた案件は、フルリモートではないのですか?

「リモート可」という表記だけでは、出社頻度は分かりません。各社の集計では、フルリモート・週1〜2日出社・週3〜4日出社がすべて同じ「リモート」区分に入っています。なお、フリーランス新法12条の的確表示義務に関する公正取引委員会のQ&Aでは、業務に従事する場所について複数の候補を示して「応相談」とする表記も認められています。つまり「リモート応相談」は適法な表記であって、フルリモートが確定しているという意味ではありません。確認は案件ごとに、出社の回数と目的を聞く形で行ってください。

契約書に稼働場所が書かれていません。書いてもらうよう頼めますか?

頼めるどころか、明示は発注側の義務です。公正取引委員会のQ&A 問35によれば、フリーランス新法3条通知の明示事項8項目のひとつに「給付・役務提供の場所」が含まれています。書面または電磁的方法(電子メール、チャットツール、SMS、SNSのメッセージ機能等)で明示される必要があります。ただし、業務委託の時点で内容を定められないことにつき正当な理由がある場合は、その時点での明示を要しないとされています。この場合も内容が定まり次第すぐに明示する必要があるため、「いつ確定するか」まで確認してください。

なぜリモート案件のほうが単価が高いのですか?

2026年6月度の集計では、リモート案件の平均月額単価79.6万円に対し常駐は77.5万円で、リモートが月2.1万円高くなっています。ただしこれは働き方への上乗せではなく、要求水準の反映と読むのが自然です。リモートで人を受け入れる発注側は、立ち上がりコスト・進捗の見えなさ・情報の持ち出しという3つのリスクを引き受けることになるため、それを任せられる相手に絞られます。「リモートを選べば単価が上がる」という因果ではないため、実績が不足している段階でリモート限定に絞ると、案件の母数だけが減ります。

フルリモートを条件にすると、どのくらい候補が減りますか?

条件を足すごとに掛け算で減ります。レバテックの掲載データを例にすると、絞り込みなし102,415件 → リモート区分54,004件 → 主戦場言語(Java 22.2%)で約11,990件となり、3条件で約8.5分の1になります。さらに「出社ゼロ」という4つ目の条件を重ねると、比率が非公表のため何件残るのか算定できません。この構造があるため、初回から4条件すべてを固定すると提示ゼロになりやすくなります。固定する条件は2つまでに絞り、残りは交渉で寄せてください。

いま常駐で稼働しています。リモートに変えてもらえますか?

交渉次第ですが、育児・介護が理由の場合は法的な足場があります。フリーランス新法13条により、6か月以上の業務委託(更新により6か月以上継続するものを含む)を行うフリーランスから育児介護等の配慮の申出があった場合、発注側は申出内容の把握・選択肢の検討・結果の伝達を行う必要があります。公正取引委員会が示す配慮の具体例には、介護のために特定の曜日はオンラインで就業したいという申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整することが含まれています。ただしこれは実現の義務ではなく、十分に検討したうえでやむを得ず実施できない場合は、その旨と理由を説明すれば違反にはなりません。育児・介護以外の理由は本条の対象外です。

地方に移住してからフルリモート案件を探しても大丈夫ですか?

順序としては勧められません。案件は首都圏に集中しており、掲載データではレバテックが東京都70,097件に対し大阪府12,703件、Findyが東京都1,189件に対し大阪府31件です。地方在住者の実務は「地方の案件を探す」ではなく「東京の企業の案件をリモートで受ける」形になります。移住を先にすると「出社不可」という条件を固定した状態で母数を絞ることになるため、案件確保 → 3〜6ヶ月の稼働実績 → 移住の順が現実的です。移住前に、出社が実際に何回発生したか、交通費の負担者が書面で確定しているかを確認してください。

スキルシートに「出社不可」と書くべきですか?

「月◯回まで出社可」と書くほうが母数が残ります。リモート案件の相当数が、キックオフや月次定例だけ出社を求めるタイプです。「出社不可」と書くとこの層がまるごと候補から外れますが、上限つきで可と書けば残ったうえで、実際に出社が発生するかは案件ごとに交渉できます。検索段階で自分から条件を固定すると、交渉のテーブルに着く前に候補が消えます。

リモート案件は今後増えますか?

直近の数字は減少方向です。掲載案件数は463,542件(2025年4月)から408,133件(2026年6月)へ12.0%減り、リモート比率も33.6%から31.6%へ低下しました。掛け合わせるとリモート案件の実数は約17.2%減で、全体より速いペースです。企業側でも、テレワーク実施率は14.5%と調査開始以来最低、テレワーク実施者のうち週5日以上出勤する人が32.5%で過去最多となっています。ただし制度としての導入率は50.1%(情報通信業92.8%)と高い水準にあり、制度の有無と運用実態が乖離している状態です。

面談で「基本リモートです」と言われました。それで大丈夫ですか?

口頭の説明は明示にあたりません。稼働場所(給付・役務提供の場所)は3条通知の法定明示事項ですので、「3条通知の役務提供の場所の欄には、どう記載されますか」と確認するのが適切です。これは無理な要求ではなく、発注側の義務の内容を確認しているだけです。あわせて、オンボーディング期間中の出社の有無、月あたりの出社回数と目的、交通費の負担者の3点を稼働開始前に文字で確定させてください。

契約の途中で「来月から出社」と言われたらどうなりますか?

これは解除ではなく条件変更にあたる可能性が高く、フリーランス新法16条の中途解除等の事前予告義務が直接適用される場面とは限りません。同条は6ヶ月以上の業務委託を中途解除・不更新とする場合に30日前までの予告を求めるものです。したがって、稼働場所の変更手続きについては契約書側に条項を入れておく必要があります。法律が守る範囲と、自分で契約に書かせておく範囲を分けて考えてください。

まとめ

フルリモート案件を獲得する|要点

  1. フルリモートは希望ではなく、母数を絞るフィルタ — 条件を1つ足すごとに候補は掛け算で減る
  2. フルリモート単独の比率は、誰も公表していない — 「リモート」区分には週3〜4日出社も含まれる
  3. 3条件で約8.5分の1 — レバテックの例で102,415件 → 54,004件 → 約11,990件
  4. 比率より、絞り込んだ後の実数 — 比率95%の会社を言語で絞ると約1,300件、比率52.7%の会社なら約11,990件で約9倍の差
  5. 単価差2.1万円は待遇ではなく選抜の厳しさ — 発注側は立ち上がり・可視性・セキュリティの3リスクを負っている
  6. 獲得の実務は、その3リスクを過去の実績で潰して見せること — 「在宅勤務の経験があります」は差別化にならない
  7. 初回に固定する条件は2つまで — リモートでの稼働実績そのものが、次のフルリモート案件の材料になる
  8. 「給付・役務提供の場所」は3条通知の法定明示事項 — 口頭の「基本リモートです」は明示ではない
  9. 契約前に8項目を確定 — 特に初月出社・交通費の負担者・稼働場所の変更手続き
  10. 移住は案件確保の後 — 案件は首都圏集中。順序を逆にすると条件を固定した状態で探すことになる

この記事を通して繰り返してきたのは、フルリモートは「探し方」ではなく「母数」の問題だということです。

条件を4つ重ねれば候補は数百分の1になります。しかも4つ目の「出社ゼロ」については、そもそも何件あるのかを誰も公表していません。この状態で「フルリモート希望です」と言って待つのは、見えない母数のなかで抽選を待つのと同じです。

だから、やることは3つに整理できます。母数を作る。要求水準を満たしていることを実績で示す。そして条件を文字で確定させる。

最後の1つが、この記事で最も伝えたかった部分です。稼働場所は、好意でお願いする条件ではありません。「給付・役務提供の場所」は、フリーランス新法3条通知の法定明示事項です。 面談で「基本リモートです」と言われて安心するのではなく、その一文が書面のどこに入るのかを確認してください。 参画してから条件が違ったときに、あなたの手元に残るのは記憶ではなく文字だけです。

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